前回の記事に続くお話です。前回の記事はコチラ
犬の前十字靭帯について
前十字靭帯とは後肢の膝関節の中にある靭帯です。犬が運動するときに膝関節が安定して屈伸運動ができるように働いています。
犬の前十字靭帯断裂について
前十字靭帯(下図の赤い部分)は様々な原因で完全にあるいは部分的に切れてしまいます。前十字靭帯が損傷を受けると膝関節では強い炎症がおこり、重度の痛みと跛行(はこう)を引き起こします。跛行の程度は様々です。靭帯損傷と関節炎の程度によって、「なんとなく歩き方がおかしい」軽度の跛行から「完全に後肢を上げる」重度の跛行まであります。また前十字靭帯断裂で不安定な関節のまま運動をし続けると、半月板の損傷を合併し、さらに重度な痛みと跛行が長期化します。
この状態で患肢に体重がかかると、犬の脛骨の解剖学的構造の特徴により脛骨は前方に変位して(ズレて)しまい、正しく体重を足にかけることができず跛行が生じます。また、前十字靭帯は敏感な感覚神経を持つため小さな靭帯の損傷でも激烈な痛みが生じます。さらに前十字靭帯断裂は進行性の関節炎と変形性膝関節症を引き起こすため、慢性的な痛みと跛行を示すようにもなります。前十字靭帯が断裂した状態で無理して歩き続けると、半月板(半月軟骨)に無理な力がかかり半月板損傷が生じます。半月板損傷は関節炎と痛みを増悪させるため、跛行はより重篤化していきます。
半月板:下図(内側半月板の後角が最も傷つき易い)
犬の前十字靭帯断裂はその原因によって大きく2つに分類されます。
□急性前十字靭帯断裂
外傷が原因で生じるタイプで、交通事故やスポーツ(フリスビーやボール投げなどの運動)などで過剰なエネルギーが膝関節に加わることにより起こります。運動量の多い2〜3歳未満の犬で見られます。
人の前十字靭帯損傷ではこのタイプが最も一般的ですが、犬の前十字靭帯断裂では稀です。
□慢性前十字靭帯断裂
前十字靭帯がゆっくりと慢性的に変性していくことが原因で生じるタイプです。前十字靭帯の変性が進行していくと、靭帯は十分な強度を維持できなくなり、普段の運動でも小さな損傷が蓄積していき、部分断裂が生じます。さら悪化を重ねると靭帯の完全断裂に至ります。犬の前十字靭帯断裂のほとんどがこのタイプです。犬の前十字靭帯断裂のほとんどがこのタイプです。
慢性前十字靭帯断裂の発生要因として以下のものが考えられています。
遺伝学的要因
免疫学的要因
形態学的要因(大腿骨、脛骨)
生体力学的要因
併発疾患による
内科療法
前十字靭帯断裂の内科療法は保存療法です。下記の方法を組み合わせて痛みのコントロールを行いながら、生活の質を維持していく治療法です。長期間安静にして、自己治癒力で膝関節が緩やかに安定化していくのを補助していきます。
内科治療ケージレスト(安静)鎮痛薬(痛み止め)環境の整備、体重管理、関節系サプリメント、リハビリテーションサポーターなどが使用されます。
外科療法
断裂して不要となった前十字靭帯をトリミングし膝関節内を洗浄します。その後、不安定な膝関節を安定化させる手術を行います。安定させる術式は様々な方法が考案されていますが、当院では大きく2つの術式を取り入れています。体重・体格・活動性などを考慮し適切な術式を選択します。
①脛骨高平部水平化骨切り術:TPLO
大型犬・超大型犬にも対応できる強力な術式です。本来傾斜のある脛骨高平部を骨切りし回転して水平にすることで、 体重をかけた時に大腿骨と脛骨がズレないようにする術式です。
②関節外法
体重が軽い小型犬や活動性の低い犬に適した術式です。人工材料を代替靭帯(人工靭帯)として用い、大腿骨と脛骨を安定化する方法です。関節外法の中にも様々な術式が存在しますが、当院ではLFS法(Lateral Fabellotibial Suture)を行います。
無治療の場合のリスク
前十字靭帯断裂の犬の30〜40%では、2年以内にその反対足でも前十字靭帯断裂が生じるとされています。早期の治療ができなかった場合では、その可能性は高くなると考えられます。
膝関節が不安定な状態で運動を続けることによって半月板に過剰な負荷がかかることで生じます。半月板損傷は、さらに関節炎を進行させ痛みも重篤化するため、跛行が長期化します。
関節炎が進行し続けることで変形性関節症が起こります。変形性関節症では関節周囲に骨増殖体・骨棘が作られます。骨増殖体・骨棘は本来関節には存在しないため、関節の運動時に邪魔となり痛みや関節可動域の減少に繋がります。
ご相談やセカンドオピニオンにも対応しておりますので、当院までお越しください。
※当院は予約制となっております。事前にご連絡頂きますようにお願いいたします。
※医療関係者様からの手術の依頼、相談等も受け付けております。
TEL:050-1807-1120
武相動物病院 獣医師 岩屋大志郎
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